てんかんの最新の薬物療法
国立療養所静岡東病院 久保田 英幹
なぜ新薬に期待するのか?
当たり前のことだが、どんな病気でもその治療は病気の症状や原因に基づいて行われるのであり、てんかんの治療もまた同様である。てんかんの場合、治療薬の選択は発作診断に基づいてなされる。
一投的な手順としてはまず、患者さんの発作に対して第一選択薬と考えられる何種類かの薬物の単剤療法から始める。最初の薬で十分な劾果が得られなければ、次の一次選択薬を試みる。二次選択薬の単剤療法が試みられる場合もある。単剤で発作が十分コントロールされない場合には、それまでの単剤療法での治療効果、発作の進展の仕方、合併する発作の種類等を考慮して、薬物の組み合わせが検討される。このようにしてあらゆる治療努力をしても、発作のコントロールされない場合を難治てんかんと呼び、そのようなてんかんをもつ患者さんは、全ての患者さんの約2割を占める。
てんかんをもつ人が日本にはおおよそ100万人いると推定されているので、難治てんかんに悩む患者さんは、日本に約20万人もいる。
新薬に対して第一に期待しているのは、これら難治てんかんに悩む患者さんである。先に第一選択薬と書いたが、どの成書にもあらゆる発作形に関して、第一選択薬が複数挙げられていることに気つく。どういうことなのか?それらの薬物の間で効果に著しい差はない。しかしそれは統計上の話であって、個々の患者さんにとっては、同じ第一選択薬であっても効果に差があることがしばしばある。第二次選択薬の方が効くこともある。効果の個別性であり、難治てんかんの場合にその傾向が強い。
抗てんかん薬の効果を評価する方法として、服薬前後で発作の頻度を比較する方法がある。服薬前に比べて、服薬後に発作が何%減ったかあるいは逆に増えたかを調べる。50%以上減った場合を「よく効いた」と見なすことが多い。統計的には、服薬した全患者さんに対して、50%以上発作の減った患者さんの割合を有効率として表すことが多い。有効率が低い薬とは「効きの悪い薬」ということではなく、「よく効く患者さんの割合が少ない」ということを指す。したがって、「有効率の高い薬が効かなかったから、有効率の低い薬を用いても効果は期待できない」のではなく、「有効率の低い薬は、よく効く可能性は少ないが、効いたときにはよく幼く」のである。難治てんかんに悩む人にとって重要なのは、新たな治療手段を手にすることであり、可能性に挑戦する機会を得ることである。以上は抗てんかん薬の使用法の一般的な話なのだが、このように書くと、新薬は効果があまり期待できないと誤解を生みそうなのであえて付け加える。日本で利用できない新薬がすでに利用可能な欧米において、薬剤の選択順位は日本のそれと異なってきている。これは新薬の有用性を示す一つの証左であろう。
第二は副作用の問題である。第一次選択薬であれば医師はランダムにあるいは好みでその中の一つを選択しているわけではない。行動異常、精神症状など合併する症状や容貌に対する副作用、胎児への影響等を考慮して薬物の選択がなされる。従って、第一次選択薬であっても副作用を考慮して優先順位を下げたり、時には使用を控えることもあれば、第二次選択薬から治療を始めることもある。少数ではあるが、明らかに有効なのに発疹や白血球減少症、貧血などのアレルギー反応など副作用のためにその薬を使用することができず、結果として難治てんかんに悩むことになってしまう思者さんもいる。難治てんかんの患者さんの中で、副作用が理由で選択薬が制限されてしまう思者さんは以外に多い。また発作は抑制されているものの、様々な軽微な副作用を我慢して生活している患者さんは少なくない。正に発作と副作用を両天秤にかけて生活することを余儀なくされているのであり、このような患者さんにとって、副作用の少ない薬物が利用できることは非常に重要である。新薬の有効性が認められた患者さんの中には、他の併用抗てんかん薬を中止でき、その結果、新薬単剤になった患者さんも少なくない。トータルの薬剤数が減れば、副作用が出にくくなることはよく知られた事実である。
よりよい薬を手にし、治療の選択肢が広がるのは、難治てんかんに悩む患者さんだけでなく、100万人といわれるすべての患者さんの切なる願いである。
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